当研究室の崔夢瑩さんの論文がProc Natl Acad Sci U S A.に掲載されました
エネルギー産生を担う細胞内小器官であるミトコンドリアと、生体分子の分解を担うリソソームの機能を維持することは細胞を健康に保つうえで重要です。またミトコンドリアとリソソームは細胞内において接触部位をもちクロストークを行っており、互いの機能維持にそれぞれの存在が重要であることが示唆されています。さらに近年、細胞老化や様々な加齢関連疾患において、損傷を受けて機能低下したミトコンドリアやリソソームが共に蓄積していることが報告され、これが細胞老化や様々な加齢関連疾患における共通した特徴であることがわかってきました。しかし、ミトコンドリア、リソソームを制御する共通の機構があるのかどうか、両者のクロストークの分子機構、またその老化における意義は不明でした。
今回、研究グループは、オートファジー・リソソーム機能のマスター転写因子として働き、ミトコンドリア機能制御にも関わる転写因子TFEBに着目し、この下流でミトコンドリアおよびリソソーム両者のクオリティコントロールに関わる共通因子を探索しました。その結果、ミトコンドリアとリソソームが損傷を受けた際にTFEB依存的に活性化される新規の因子として、ヘキソキナーゼファミリーの一つHKDC1を同定しました。HKDC1は解糖系の酵素として働くことが知られていますが、この機能とは独立して、損傷したミトコンドリアの除去や損傷リソソームの修復を介して両者のクオリティーコントロールに必須の働きを持つことが分かりました。HKDC1はミトコンドリア損傷時において代表的な損傷ミトコンドリア除去機構であるPINK1/Parkin依存性マイトファジーを介して損傷ミトコンドリアの除去を担うこと、またリソソーム損傷時においては、ミトコンドリア・リソソーム接触部位を増加させ、リソソームの膜修復を促進していることを見出しました。さらにHKDC1を欠損した細胞では機能低下したミトコンドリアや損傷リソソームの蓄積を伴い、細胞老化が進行することが分かりました。これらの結果から、TFEBの下流でHKDC1はミトコンドリアとリソソーム両者の恒常性を維持し、細胞老化の抑制に働く必須の因子であることが明らかとなりました。今後TFEB-HKDC1経路の調節を介した老化抑制や加齢性疾患の治療法への応用に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2024年1月4日(木)(日本時間)に国際科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(オンライン)に掲載されました。